1 omikitokkuriの教室 小説を読むんだってよ!

 僕の名前は奈爪 圭です。高校三年生、あと何ヶ月かで受験です。とうとう自分たちの番が来る、ということですが、どうもその気になれない。同級生は、僕のことを求道的な人間みたいにいうけど、ただ真面目に生きていこうとは思っているだけ。今年はもっと英語の力を伸ばさなきゃと思っています。

高校の授業ってこんなもんだっけ?

さて、今日からこの時間は現代文か。まあ、出席だけしていれば、という楽勝科目だな。担当は、去年と同じ”御神酒徳利”だし。先生に倣ってテキトーにやっていこう。

チャイムが鳴った。

いきなり、「みんなは、“タモリ倶楽部”という深夜番組、見たことある?」と、おじさん教員が問いかけた。いつものことだが、僕たちの大部分はなんの反応も示すことはない。だるい、午後の授業。この自分たちの気持ちをどうにかして教師に伝えたい。国語の授業なんてどうでもいい。とにかく卒業するために我慢してるんだよと、僕たち二十人弱の生徒のほとんどが思っている。それがこの先生には、どうしてわからないんだろう、と僕は思っていた。

僕自身は、この先生が特別嫌いというわけではなかった。このおじさんが話すどうでもいい世間話が、正直に言えば時には面白かったり、興味深く感じられたことがあるのも事実だった。でもこの人は悪い癖で、自分と同じような興味が僕たち全員にあって、しかもその話題を、いい加減にしてくれ、せめて時間の半分は授業のようなもので良いからしてほしい、と思うくらいしつこく続けることがたびたびあったのである。

「圭。お前見たことあるだろ?」と目があってしまった僕に、彼は問いかけてきた。

「はい。見たことはありますよ。」

「あれ面白いよな。」

「そんなには…。」

 僕はこれ以上その先生と関わりたくなかったから口の中でモゴモゴと、しかし拒否感をはっきり出して答えた。

仕方ない。お相手するか。

あからさまに、机の上に突っ伏して、寝ている(そぶりをしている)やつ。こっそり机の下でスマホをいじっているやつ。その集団の中でその先生と目が合ってしまった不運に、僕は「やっちまった。」と思った。

「番組の中で、“そら耳アワー”ってあるよな。知ってるだろ?あれなんで面白いんだろうな。」

実はその番組がちょっとエロティックで、そんなのを見ているようにクラスのみんなに思われたくないという気持ちがありながら、そのコーナーだけは面白いと思っていたので、つい「ああ、あれね」という気持ちを僕は顔に出してしまった。おじさん先生は見逃さなかった。こんなところには教師経験が発揮されるのだろう。

「何が面白いんだ、どっかの国のある歌の歌詞が、日本語の、全く場違いな言葉のように聞こえるだけだろ。あれのどこが面白いんだ?」

こういうふうになっていくから、僕は教師の質問に答えたくないんだ。うまく答えることができれば、それはいいんだけど、なかなか的を射た答えはしにくい。この授業でも多くの生徒はこの手の問いかけには「わかりません」という一言で敵の攻撃を撃破する。要するに“面倒くさい問いをするな”ということなのである。ちょっと素直な、いわゆる“良い子”は少し考えるフリをする。

でも、僕はこの時つい答えを言ってみようという気になった。中学校までは一応国語の成績は良かったのである。今までもいわゆるまともな小説も何遍か読んではいた。

「えーと、何かア、思ってもなかった言葉が聞こえるようで…」

敵は意外なやつが引っかかった、とでも思ったんだろう。追及してきた。

「だから、それが“面白いのか”はなぜだろう、と聞いているんだよ。」

「えーと。面白いから面白い、と言うより仕方が…。」

「そこを説明すんのが国語力じゃあないの?。」

 全く、腹が立つ。嫌になる。だから国語が嫌いになるんだよ、と言いたくもなるではないか。しかも、この教師は続けてこう言った。

わりーね

「おれにもうまく説明できないけどよ。」

なに、それ!

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